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没イチ、カンボジアでパン屋はじめます!

二週間で一度も誰とも会話しないって、どういうこと!?

 2018年末には「没イチ会」メンバーと、没イチ男性のファッションショーを開催した。私は2017年に、配偶者と死別してひとり暮らしになった高齢者の生活について調査したことがあった。その結果によれば、女性は半数以上が、死別前に比べて友人に会うことが増えたと回答したのに対し、男性では「とても減った」と回答した人が、「とても増えた」人を上回っていた。
 外出する機会が少なくなるだけではない。国立社会保障・人口問題研究所の2017年調査によれば、ひとり暮らしの男性高齢者のうち、毎日会話がある人は49.0%と半数に満たないのはともかく、15%、つまり6~7人に1人は、二週間のうち一度も誰とも会話をしないという驚愕の結果が出ている。2015年の国勢調査によれば、65歳以上でひとり暮らしをしている人は、女性で400万3000人、男性で192万4000人と、女性の方が圧倒的に多い。しかし65歳以上人口に占める割合をみると、ひとり暮らしをしている人は男性のうち8人に1人、女性は5人に1人なので、ひとり暮らしの男性高齢者の割合が決して少ないわけではない。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2035年には65歳以上の男性の6人に1人がひとり暮らしになるとされており、何日も誰とも会話をしないひとり暮らしの男性が少なくないという事実は、今後、ますます深刻な問題となる。

65歳以上高齢者の会話頻度

「生活と支え合いに関する調査」国立社会保障・人口問題研究所 2017年調査

 コロナ禍で、オンライン飲み会やオンライン会議をする人は増えた。つながる相手がいるのなら、ネット環境と電子機器があれば、人と会話をすることが可能だが、話す相手がそもそもいないなら、最新機器があっても会話が増えるはずはない。二週間のうち一度も誰とも会話しなかった人たちが、最近になってオンライン飲み会に参加するようになっているとは思えない。

 現に、先の私の調査では、同性の友人がそもそもいない男性は33.6%もいた。配偶者と死別し、ひとり暮らしになっても、お茶や食事を楽しむ程度の同性の友人がいる女性は75.8%いる一方、男性では40.8%と半数にも満たない。困ったことがあれば相談しあえる同性の友人がいるかについて、「いる」と答えた女性54.8%に対して、男性は25.2%にとどまった。男性は、お茶を一緒に飲んだり、趣味を一緒に楽しんだりする友人はおろか、困ったことがあればお互いに相談したり、自分のことを理解してくれる同性の友人はほとんどいない状況だ。
 異性の友人について見ると、男性の友人がいない女性は59.2%もいる一方、女性の友人がいない男性は44.8%で、女性に比べると異性の友人がいる人は男性の方が多い。とはいえ、妻を亡くしたひとり暮らしの男性は、同性にせよ、異性にせよ、親しい友人が少ないことに変わりはない。
 配偶者と死別したシニアに限らず、日本の高齢者はそもそも、諸外国に比べて友人が少ない傾向がある。2015年に内閣府が60歳以上の人を対象に実施した国際比較調査では、「家族以外に相談あるいは世話をしあう親しい友人がいるか」の問いに対し、「いない」と答えた日本人は25.9%だが、米国では11.9%、スウェーデンでは8.9%しかいない。また、スウェーデンでは、6割近くのシニアが同性と異性の友人がいると回答しているが、日本では同性・異性の友人がいる回答者はわずか13.8%だ。配偶者の有無にかかわらず、日本の高齢者には、気の置けない友人がいない場合が多いようだ。
 多くの男性は妻より先に死ぬと思い込んでいるが、年々、妻と死別した65歳以上の男性の人口は増加している。妻と死別してひとり暮らしになる人ばかりではないが、ひとり暮らしの男性の孤立を防止するためにはどうしたらいいのかについて、私は研究者としてずっと関心を持っていた。没イチ会は、人と人とをつなげる一つの試みでもあったのだ。

没イチ男性素人モデル、下は59歳、上は77歳! 人生初のランウェイ

 話は戻り、没イチ男性のファッションショーのアイデアは、2018年の没イチ会の新年会で、男性メンバーから「今年はイメージチェンジをしたいです」という一年の目標を聞いたのが始まりだ。
 この男性の話を聞いているうち、妻に先立たれた世の中の男性は、定年退職してスーツを脱いでしまったら、普段着を褒めてくれたり、一緒に選んでくれたりする人がいないのではないかということに私は気が付いた。ましてや友人が少なく、外に出る機会が減ってしまえば、ますます引きこもってしまう。このままではいけないと思いながら、きっかけがないまま誰とも会話をしない状態になるのであれば、服装を変えて少しだけおしゃれに変身すれば、気持ちが上向くのではないかと思いついたのだ。
 有無を言わせず、男性メンバー6人にモデルとして出てもらう了解を取った、までは良かったが、難航したのは洋服選びだ。モデルは素人だし、全員のスタイルがいいわけでもない。没イチ男性のイメージが良くないのだろう、いろんなメーカーにお願いしたのだが、こころよい返事をもらえることはなかった。最後には女性メンバーの尽力で、衣装を提供してくださるお店が見つかったのだが、衣装合わせをする男性陣の顔がイキイキしていたのが印象的だった。

 専門のスタイリストにコーディネートを提案してもらうと、「こんな色なんて着たことがない」「こんなデザインはちょっと」と文句を言っていた人たちが、試着室から出てくるとまんざらでもない顔になる。女性だけでなく、男性も、「かっこいい」「似合ってる」と褒められると表情が明るくなるのだと知った。プチプライスのお店だったこともあり、スタイリストに選んでもらった服をその場で購入した人もいたのだが、一か月後の没イチ会では、メンバーたちはその服をさっそく身に着けて現れたので、思わず笑ってしまった。
 妻と死別したかどうかに関係なく、スーツはともかく、普段着を買う時に、お店のスタイリストの意見を聞くシニア男性はそれほど多くはないだろう。没イチ会にも、妻が生前に買ってくれた服や下着を大事に使っているので、そもそも自分で普段着を一度も買ったことがないというメンバーもいた。そんななか、スタイリストに見立ててもらったおしゃれな服を手に入れたら、せっかくの飲み会だからこれを着ていこうという気持ちになるだろう。
 ファッションショーをする以上、ランウェイの歩き方を練習する必要もあった。知人の紹介で、ミスユニバースの準グランプリで現役のモデルから3回もレッスンを受けた。「背中を伸ばして!」「下を見ないで歩く!」「右手と右足が同時に出ている!」「曲のリズムに乗って!」と次々とアドバイスが飛ぶが、娘の年齢のような先生の指示に素直に従い、帰宅後は、自宅や近所の公園でウォーキングの自主練習までしたという。何にでも興味を示し、真面目に取り組む彼らの姿勢は、私にとっても勉強になった。

 本番当日は、控室で人生初のメイクをプロにしてもらった。「この次にメイクするのは死んだときだわ」などと言いながらも、プロの手で変わっていく自分の姿に、みんなまたまた、まんざらでもない。
 この経験を通し、性別や年齢には関係なく、ちょっと素敵な服を着たり、身だしなみを整えたりするだけで、みんな気持ちが明るくなるのだと実感した。当日はたくさんのメディアに取材していただいたが、彼らの姿をみて、同じように妻と死別した男性が、ちょっとだけおしゃれして、外へ出てみようと思ってくれればいいな、と思った。
 このファッションショーをして、私は気づいたことがある。私はこれまで、シンクタンクの研究員としてさまざまな提言や意見を発信してきたが、いろんな分野のプロたちの協力を得てこうしたイベントを作り上げ、メッセージを発信することの意義についてだ。私が勝手に思いついて始めたイベントなので、ファッションショーにかかった費用はすべて私が負担した。単なるサラリーマンだった私には大金だったが、それだけのお金を払っても、世の中にメッセージを伝えることができたなら、やってよかったと思っている。他人は、「そんなことして、バカじゃないの!」と、理解に苦しむだろう。私はこれで何かお金が入るわけでもないし、ファッションショーの仕事をやっていくわけでもない。単なる自己満足なのだ。「伝えたいことがあるからやる」。それでいいのではないかと思う。
 カンボジアでの活動もそうだが、このファッションショーも、自分の胸に誓った「やりたいと思ったことは、いつか、ではなく、すぐやろう」という思いのなせる業だった。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

小谷みどり

こたに・みどり 1969年大阪生まれ。奈良女子大学大学院修了。第一生命経済研究所主席研究員を経て2019年よりシニア生活文化研究所所長。専門は死生学、生活設計論、葬送関連。大学で講師・客員教授を務めるほか、「終活」に関する講演多数。11年に夫を突然死で亡くしており、立教セカンドステージ大学では配偶者に先立たれた受講生と「没イチ会」を結成。著書に『ひとり終活』(小学館新書)、『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓 』(岩波新書)、『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』(新潮社)など。


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