Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

5月、東京の空。

 それは3月のことだった。朝の自室。いつものように目を開ける。頭はきっと目覚めているのに、体が起き上がろうとしていなかった。日付は3月29日、28歳最後の日。すぐに気づいた。兄の年齢を超えることを、全身が拒んでいた。

 拒んでいた、というよりも、戸惑っていたのかもしれない。13歳離れた兄を心の中で見上げる自分は、一瞬にして15歳に戻る。少し前の3月12日、父の誕生日が兄の命日でもあった。穏やかなその人となりを思い返しながら、彼のように出来た人間ではない自分がその年齢を追い越していいのか、この月は毎日のように頭の片隅で問い続けた。そんなときに家族の一人が、こんな言葉をかけてくれた。

「年齢を追い越すのは尊いことだよ。だって兄さんの存在があったから、ここまで生きてこられたんでしょ」

 どんななぐさめの言葉よりも、たった一つの肯定の言葉がほしかったのだと気づいた。

 瑞々しい5月。今度はその兄が誕生日を迎える。彼がいったいなにが好きで、どこをいつも歩いていたのか、もう尋ねることはできない。この文章になんの写真を添えればいいのか迷いながら、当てもなくカメラを向けると、空が笑った。いつでも、笑い返せるように。

気づけば足元にも広がっていた、空の青。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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