シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

切り立った岩の割れ目から生えだし、真っ白な花びらを広げるはまぎくたち

 三陸の浜辺でこの季節に出会える花がある。冷たい風にも動じず、そして静かに海を見守るその出で立ちにいつも心惹かれ、シャッターを切ってきた。特にその名を気にしたことはなかったが、地元の方が「はまぎく」という名前と共に、花言葉を教えてくれた。「逆境に立ち向かう」。

 それは批判や激しい抵抗だけを示すのではなく、まずは動じず、自身とも対話をしながら冷静に思考し続けること、そして未来への選択肢を手放さないことなのだと、この花が教えてくれたように思う。恐らくそれは、民主主義の礎でもある。

 何を逆境と感じるかはきっと、何を身近に感じるのかと密接につながっている。労働環境、少数者への差別、生活保障、テロ対策。思えば私が政治に興味を持ちだしたのは、レズビアンの親友ができたことだった。「人を好きになるだけで、私は笑いものにされるかもしれない」といつも怯えていた彼女を見て、性的少数者と呼ばれる人々であっても、生き心地のよい社会になるにはどうしたらいいか、と考えるようになったのが原点だった。家族の縁で通うようになった三陸沿岸も、私にとって大切な場所だ。繰り返される「2020年までに復興終了」という言葉は、まだかさ上げ工事が続き、コミュニティをこれから築かなければならない街の声に耳を傾けたものだろうか。

 だからこそ投票とは、「変えてほしい」ではなく「変えていきたい」と、私たちが意思を示す場なのだと思うようになった。そしてそれはエピローグではなく、プロローグ。「あなたたちがどんな取り組みをするのかを、選んだ私たちはこれからも見ています」と、私たちの関りはむしろこれから問われている。

岩手県大船渡市、小石浜。霧の向こうに広がる世界に、目をこらす
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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