
「くたばれ、正論。」という、エナジードリンクの広告のキャッチコピーが注目を集めた。成人の日に新聞に掲載されたもので、若者を意識して目を引こうとした言葉だったのだろう。ざっくり言えば、行き過ぎた正しさや常識にとらわれず、自身の感性を守り、揺るがず動こう、という投げかけだった。
このコピーは物議を醸した。広告が掲載されたのは、アメリカでは大統領自らが根拠のない情報やデマを流し、煽動された群衆が議会に押し入り、死者まで出た直後だった。一国のリーダーによって4年間、「正しさ」が踏みにじられた結果は重かったのだ。
確かに”行き過ぎた正しさ”が息苦しいこともあるかもしれない。ただ、果たして感性を磨滅させるものは「正論」だっただろうか、と自分の10代の頃を振り返る。
高校生の時、カンボジア渡航を前に、「気をつけて行ってきてね、君の身に何かがあったら学校の名前が出て困るから」と不気味に笑った校長の顔。カンボジアから帰国し、人身売買の被害に遭い売春を強要された同世代の子の言葉を伝えようとした時、「そんな言葉を文化祭の場で使うのは”ふさわしくない”」と言った教員の高圧的な声。思い浮かぶのはそんな光景だ。私の感受性が深呼吸することを阻んでいたのは、「正論」のふりをした、大人たちの理不尽な言動だった。「ルールはルールだから」と、何のためにあるのか誰も説明できない校則を押しつけ、思考停止を促す環境は、息苦しかった。
今、抗うべきは「正論」というよりも、「正論」をただ嘲笑する態度や、正論ぶった「もっともらしさ」なのかもしれない。それを見極める感性を、磨き続けたいと思う。

-
-
安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
この記事をシェアする
ランキング
MAIL MAGAZINE
とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
-
- 安田菜津紀
-
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
連載一覧
対談・インタビュー一覧

ランキング





ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら





