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おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

2019年8月21日 おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

宮崎県都城

酒席の遊びと南交餅

著者: 若菜晃子

 地方の和菓子店には、土地の名物や歴史、文化、伝説などをもとに作られたお菓子が数多く存在している。材料こそ一般的なもので、味としてはごくふつうの和菓子なのだが、名付けの妙といえばよいのか、店主の好みや発想によって土地柄を如実に表す創作菓子になっている。そうしたものは有名銘菓とは違い、また昔から伝わる郷土菓子とも性格が異なるので、近隣の人が知るだけで多くは知られず、店の一角にひっそり並んでいる。それらを発見するのがまた旅の楽しみでもある。

 鹿児島との県境に近い宮崎の都城を訪れたときに出会ったのは南交餅であった。地方の町には必ずある中規模の老舗和菓子店で、中に入ってお菓子を眺めていると、奥から出てきたのは眉間に皺を寄せ、鼻に眼鏡をかけた、みるからに手強そうなおじいさんであった。この人が店主であり職人だろうと思われるが、ウインドウを見ている私を向こう側から黙って見ている。
 さまざまな地元菓子の並ぶなかから、私は四角い拍子木の形をした南交餅なるものを見つけ、「南交ってどういう意味ですか」とついのんきに尋ねた。するとおじいさんはそんなことも知らんの? という顔をして、「南交(なんこ)といって酒席での遊びがあるんですよ」と教えてくれた。

お菓子の南交はやわらかく、きなこの風味がきいている

 遊び方は、対座したふたりが短い木の棒(玉)を3本ずつ後ろ手に持ち、玉を握った片手を前に出し、両者の玉の合計を当てるというもので、いわゆる数当て遊びである。玉は何本握ってもよく、もちろん握らなくてもいい。相手の手の形や癖やようすで何本握っているかを見極めるのがおもしろみで、さらに数を当てるときは1本、2本と数で言わずに、「げたんは(下駄の歯つまり2本)」「天皇陛下(おひとりだから1本)」「みやこんじょ(都城は市だから4本)」などと方言でかけ声をかける。そして負けた方が焼酎を飲む。よそから来た人は勝った方が飲むんでしょうと言うけれども、南交は相手を酔いつぶすためにやるんだよと、興に乗って嬉しそうに話すおじいさんの薩摩弁がいい。今もやるというおじいさんは南交が好きで、自分の店の商品にも生かそうと考えたのだろう。南交餅はひと包みが6本入りで、ひとり3本ずつの南交どおりであるのもおかしい。じつに焼酎が好きそうな顔をしておられる。

「やるときは木でできた棒でやるんですよ、こんな菓子ではできないですから」とお餅の包みを手にした私におじいさんは念押しする。よほど物を知らぬこの客が、ぐにゃぐにゃしたきなこがけの餅を握ってやりかねないと心配するかのような口ぶりである。
 近くの道の駅で本物の南交玉を売っているから見て帰られるといい、木刀を作る堅い木で作るんです、と教えられて行った道の駅の説明と後に調べた情報によると、南交は薩摩藩が朝鮮の役から帰った際に持ち帰った遊びで、その後中国との南方貿易の接待の道具にも使われたと伝わり、南交の語源は手の内に何個あるの意と、南方交易の歴史によるといわれるが、定かではない。都城はもとは薩摩藩の領地だったため、南交の遊びも今に残っているのだろう。
 南交玉は奮発して最上等のを買った。焦げ茶の木の色もつるつるとした手触りもカラカラという音もよく、さてこれを酒席で誰とやったものか。

酒宴の遊び道具とはいえ、硬質で端正な作りに薩摩人の美意識を感じる

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

若菜晃子

1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社)、『街と山のあいだ』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。

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