
新型コロナウイルスの感染拡大から3カ月近く。緊急事態宣言が解除になったものの、移動やイベントはいまだに、
それでもオンラインでの打ち合わせや、友人たちとのZoom飲み等々、コミュニケーションは重ねているつもりだった。それでも、何かが足りない気がした。
そうだ、「雑談」する機会が圧倒的に減ってしまったんだ、と気づいたのは最近のことだ。
オンライン打ち合わせでも、「目的」である話がひと段落すれば、談笑もそこそこに「それでは」と退室する。そこでコミュニケーションはぷつっと終わる。オンライン飲みも人数が多いと、複数人の声が重なれば全く聞き取れなくなるため、いつもの飲み会よりもちょっぴり、お行儀のいい感じがする。
もちろん、打ち合わせが時間通り終わることはありがたかったし、オンライン飲み会も楽しくはある。遠方にいる友人もそこに加われるのは嬉しい。ただ、それ「だけ」では交わしきれない何かもあるのだと思う。
これまで、何気なく呟いてきた言葉やその時の仕草で、実は微妙なニュアンスを交換していたのだと思う。打ち合わせが終わった後のさりげない雑談で、面白い情報が入ってきたりもする。そして「雑談」の大切さは、実生活に結びついていることもある。
先日、4カ月ぶりに大好きなベトナム料理のお店にお邪魔した。店主さんは私が生まれる前から日本で生活している人で、日本語も流ちょうだ。全身全霊をかけて開いたお店が、感染拡大でお客さんが激減。電話した際に語っていた「地獄のようだ」という言葉は、切実なものだった。
大好きなフォーを頂きながら、店主さんの近況を伺ってみた。
私「お店、どうしてたんですか?」
店主さん「いやあ、お客さん、5分の1くらいに減っちゃって……」
私「持続化給付金の申請ってもうしてますか?」
店主さん「え、うちお店閉めてないから対象外でしょ?」
私「え! そんなことないですよ! 持続化給付金はそれだけ収入減ってたら受けられます!」
店主さん「え? そうなの?!」
長年、日本で暮らしているとはいえ、第一言語が日本語ではない方にとって、日々目まぐるしく変わる公的支援の情報に追いつくのは大変なエネルギーのいることだ。お店の維持に必死になっていれば、なおさらだろう。
常連さんも多いこのお店で、いつもであればお客さんとの会話で、もっと早くこのことに気づいていたのではないかと思う。ただ、お客さんが来られなくなり、そんな「雑談」をする機会がぐっと減ってしまっていたのだと思う。
例えば過去、何気ない会話の中で「えーそれ知らなかった!」「今分かってよかったー!」と間一髪、決定的な情報から取り残されそうだったところを、何気ない会話の中で教えられたことに救われた、なんて経験はないだろうか。
オンラインでできることはどんどん取り入れていきたい、と思う一方で、改めて気づけた「価値ある雑多さ」も切り捨てずに日常を過ごしていきたいと思う。

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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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「考える人」編集長
松村 正樹
著者プロフィール
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- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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