九州は餅文化の深く根づく地だが、鹿児島のそれにはちょっと変わった餅がある。餅ではあるが、餅米だけの餅ではなく、別のものが混じっている。別のものを餅に混ぜる文化は他の地方にもあるのだが、この地で混じっているのはイモである。
県北部のさつま町で遭遇したのは、「ねったぼ」という名の餅で、はんなりと黄色い色をした平たい三角餅であった。隣にはきなこをまぶした円形の「ねった餅」、さらにその横にはひねった形の「芋もち」が並んでいる。さてこの「ねった餅」というのは練った餅、という意味だろうか。では、ねったぼの「ぼ」は餅の意味?

三種類の餅パックを手にお店の人に聞くと、「みな同じです。人によって呼び名が違うだけで、どれもイモ餅です」という。搗いた餅に蒸かしたイモを搗き混ぜて作る餅だそうで、ねったぼは練った餅、ではなく、練ったいぼ(芋)の意味のようだ。
イモの種類はむろんその名を冠したサツマ(薩摩)イモで、中国から琉球経由で伝来した経緯から、薩摩ではいまだカラ(唐)イモと呼ばれることも多い。日本全国からみると、サツマイモは薩摩から広がったイモだが、薩摩の人からみると、あくまで唐から入ってきたイモなのだろう。
そのイモを搗きこんだ掌大の大きな餅が、「朝からよく出ますよ」とお店の人は言う。地元の人にとってイモ餅は昔ながらの食べもので、ごはんがわりにも食べているのだろう。
せっかく手に取ったことだし、三種類とも買って食べてみる。搗きたてのせいか、ふんわりとやわらかく、よく伸びる。思いのほかイモの味は強くなく、餅そのものの味ではないがイモの味とも違う、ごく品よく、口当たりのよい餅である。砂糖も入るが、お芋の甘みだけで充分においしい。これならごはんがわりに食べてもいいし、きなこをかけておやつに食べてもいい。
気候は温暖だが火山灰地で肥沃な土地の少ない鹿児島では、古くから米作よりも畑作が主体で、なかでもサツマイモはやせた地でもよく育ち、台風などの災害や飢饉にも役立つ救荒作物として、江戸時代以降広く栽培されてきた。白餅などはハレの日の贅沢品であり、少しでも量を増やすためにイモを搗きこんで食べたのだろう。イモだけでなく小豆などを餅に搗きこむ文化は、搗き入れ餅ともいい、鹿児島、宮崎、長崎などの九州各地、また四国の高知や徳島でも多くみられる。イモの搗き入れ餅は周辺の島々にもみられ、五島列島や対馬では干し芋を使うかんころ餅、からいも餅などが知られているが、こちらは保存食の意味合いが強く、仕上がりは固く、切って焼いて食べる餅である。

もちろん今では白餅もあんこのおはぎもふつうにあるのだが、ここではサツマイモのイモ餅が、ごく当たり前の餅のひとつとして存在している。当たり前だからこそ、呼び名も方言で通用しているのだろう。そのことがこの餅の歴史をも語っている。願わくは、ねったぼはいつまでもねったぼと呼ばれていてほしい。
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若菜晃子
1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社、講談社文庫)、『街と山のあいだ』『旅の断片』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。3月に『岩波少年文庫のあゆみ』(岩波書店)を上梓。
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はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
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「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 若菜晃子
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1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社、講談社文庫)、『街と山のあいだ』『旅の断片』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。3月に『岩波少年文庫のあゆみ』(岩波書店)を上梓。
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