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おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

 この週末に新潟へ旅行に行く友人と話していて、泊まりは長岡だというので、急に思い出したお菓子があった。それは、白くて平たくて長い、いわばイタリアのフォカッチャのような形をした大きなパンのようなもので、パンのようなのに和菓子店で売っていて、経木の上にのーんとのっかっていたのだった。そうしたようすだけは目に焼きついているのだが、肝心の名前はなんというんだったかなあ、表面にお醤油を塗ってあったから、醤油餅だったかなあ、でもお餅でできてるんでなくて、小麦粉で作られていてふっくらしてたから、餅ぱんだったかなあ、なにかもっと意外性のある名前だったんだけど……と、頭のなかの記憶の箱をがさごそと手探りしたが思い出せず、友人は旅だってしまい、私は遅ればせながら古い旅ノートをひっくり返して、ああ、きりぱんだったと探し当てた。

きりぱんは平たくて長いパンの形状をしている。お餅でいえばなまこ、あるいはねこと呼ばれる形か

 きりぱんは酒種の皮、つまり酒まんじゅうの皮だけで作ったパンである。作っているのは「川西屋本店」で、おまんじゅうを中心に和菓子を扱うお店である。店頭に立つ四代目のご主人によると、酒まんじゅうの皮(と、きりぱん)は麹に餅米ののりを加えて発酵させ、それを種として小麦粉に入れて練って作る。餅米の種の発酵をもとに作るので、ふっくらとふくらむ。練っているときにぎゅーっと手でまとめても、ふんわり戻るくらいである。発酵には数日かけるが、種と粉を一緒にしてからは一気に作る。同じ手順で作っても、ふしぎといつも出来が違う。ふっくらできても、オーブンから出すと、しゅーっとつぼんで固くなるのもある。それは石まんじゅうといって、五個入りで販売する。石まんじゅうとはどんなだろうとあたりを見回すと、今日はできなかったので売ってませんと言われた。
 きりぱんの小さいのは丸ぱんといって、おばあさんなんかはそんなにたくさん食べられないというので小さめに作っている。なかには、年に数回大量に買って冷凍して、少しずつ食べるファンもいるそうだ。ご主人は、パンのように軽く焼いてバターをつけて食べてもいいし、ハムやチーズを挟んでマヨネーズをつけて食べてもいい、なんでもいいんです、と話してくれた。買って食べてみると、少し固めのパンみたいで、でもやっぱりパンとは違って、ちぎってぽくぽく食べるとおいしい、と旅ノートには書いてあった。 

 そうして今、ノートを見返していると、きりぱんのことだけでなく、もっと別のことも書いてあった。
 店内には神棚があって、その上の天井に雲と書いた紙が貼ってある。空ではなく雲である。あれはどういう意味ですかと聞くと、神棚の上になにかあるときは、雲と書いて神棚の上に貼るのが正しい風習なのだという。例えば神棚が一階にある場合には、本来はその真上に当たる場所は押入や床の間といった、人が踏まない空間にしないといけない。そうできない場合は、雲と書いて神棚の上に貼る。ご主人も人に教わったのだそうだ。その雲という字が、のびやかでふんわりとした、よい字だった。             

神棚の上空には雲がふんわり漂っていた

 きりぱんの名だけでなく、こんな話もすっかり忘れていたのだが、今年は地方を訪ねる機会が圧倒的に減って、こうした出会いが少なくなってさびしい。

訪れたのは数年前の真冬、しんしんと雪降る日のことだった

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何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

若菜晃子

1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社)、『街と山のあいだ』『旅の断片』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。今春『東京甘味食堂』を講談社より文庫化。

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