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安田菜津紀の写真日記

2018年7月30日 安田菜津紀の写真日記

「生産性」と、無知は差別を呼ぶこと。

著者: 安田菜津紀

カンボジアの夕刻、雨上がり。川向うにかかった虹を見ながら。

 大学に入学して間もない時だった。新入生同士が一人一人自己紹介をし、和気あいあいとした空気の中、一人の男の子がふざけ半分にこう言った。「俺、男が好きやからー!」と。本当は彼自身はゲイではないという。ただ“笑い”を誘おうと放った言葉だった。彼の思惑通り、何人かがけらけらと可笑しそうな声をあげ、そしてまた何ごともなかったかのように時が過ぎて行った。
 休憩時間に入ったときだった。ふと窓の外に目をやると、さっきまで輪の中にいた一人の女の子が、車の陰に隠れるようにうずくまっているのが見えた。肩が震えていた。泣いているのだとすぐにわかった。
 彼女は恋愛対象として、女性を好きになる人だった。あの時、男の子の自己紹介を聞いて、「私が人を好きになることは、人から笑われるようなことなんだ」、とその場から消えたいとさえ思ったのだという。
 あの時はまだ、LGBTという言葉を知る人は少なかった。自分の身近にそういった人たちがいることも、何気ない言葉に傷つくことがあることも、知らない人が大半だったと思う。そして私も、その一人だった。
 10年以上の時が経ち、2018年になった。いまだ“生産性”という「ものさし」で人を測り、性的少数者である自分を肯定することを「不幸」と決めつける言葉が、力を持っている。というよりも、そうした言葉を放ってしまう人が権力を有することを、容認される社会がここにある。
 私の友人がLGBTと呼ばれる人々のすべてを代表するわけではない。けれども彼女は、「無知」が差別を呼ぶことを教えてくれた。学び続けなければならない理由はそこにあるはずだ。私も、そして“あの言葉”を放った、杉田議員も。

カンボジアでは至るところに花が咲き誇っている季節。同じように見えて、一つ一つ、形が違うから愛おしい。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。

 目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。

 当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。

 まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。

 あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。

 創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。

 読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。

「考える人」編集長
松本太郎

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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