シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

今帰仁村の丘から眺めた海と、桜

 国道を絶えず、巨大なダンプカーが行きかっていた。海からは金属や岩がぶつかるような音が陸地まで響く。「まるで外国の海みたいね。このフロートとか、おっきな船の群れとかがいなければ沖縄の海だけど」。土砂に埋まっていく辺野古の海を高台から見下ろしながら、案内して下さった方がもどかしそうに語った。
 沖縄では2月24日に辺野古米軍新基地建設の賛否を問う県民投票を控えている。私が訪れる直前、海外の有名アーティストが県内の基地で無料ライブを行っていたらしい。今回は基地そのものの是非を問う投票ではないにせよ、出会った20代の若者たちは「そういういいこともあるから迷うよね」と漏らしていた。「ずっと日常の中にあると、感覚がマヒしてくる」とも。若者に限らず、今の70代より下の世代は皆、生まれたときから基地と共に生きている。
 一方、全県でこの県民投票を実施しようと、ハンガーストライキを行った若者や、音楽イベントを通して気運を高めようと奔走する人々もいる。けれどもそのハンストを「テロ行為」などと誹謗中傷する言葉がネット上で散見された。「民主主義にそぐわない」と言い放つ大人がいた。あまりに視野の狭い言葉たちだと言わざるを得ない。そもそも問わなければならないのは、それしか手段がないという状況に追い込みかねない政治の在り方ではないだろうか。
 海を見下ろす丘の上では、温かな風が頬をなでる穏やかな気候の中で、早くも桜が咲き始めていた。愛おしそうにそれを見つめながら、一緒にこの地を巡って下さった方がこうつぶやいた。「基地があるより、花が咲いている方がいいね」。

田んぼには農家さんたちがコスモスを咲かせていた
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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