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おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

2019年7月18日 おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

おかしなたび

飯田 その1

たびのきほんはあるくこと。あるいてみつけるおかしなたび。

著者: 若菜晃子

長野県の飯田は南アルプスと中央アルプスの谷間の伊那谷に位置する南信州の中心都市。街を流れる天竜川は長野の諏訪湖を発し、静岡で太平洋に流れ込みます。川に沿って走るのはJR飯田線。山の人にとって飯田は登山口の街。
街には商店街が幾筋もあり、ぶらぶらと歩いているだけで和菓子店が次々に現れます。飯田は飯田藩の城下町だったこともあるのでしょう。と、そこにひときわめだつ看板が。「なんてったって赤飯万十」。裏には「内祝のおくばりに」の文字。
正体はこのようなまんじゅうでした。お赤飯を小麦粉の皮で包んで蒸かした祝い菓子で、飯田では古くから作られていたとか。小豆入り赤飯をまんじゅうにするなど贅沢の極みだったはず。紅白ではありませんが新潟の弥彦でも見かけます。
飯田藩の御用菓子司だった『和泉庄』のきんつばは太鼓形で、皮は薄くあんはぎっしり。東京銀座の歌舞伎座の実演販売「いろはきんつば」の製造元です。演劇学者河竹繁俊が飯田の出身だったご縁だそうで、銀座のお菓子に飯田で出会う不思議。
軽自動車がトランクを開けて並んでなにやら作業中。ガソリンスタンド? 銀行のATM? と思いきや、なんと精米機の並ぶ精米所でした。奥には籾殻タンクも。飯田では個人で米作りをする家が多いのか、初めて見るものが多い街。
「コメマメ低温倉庫」をもつ米麦雑穀飼料店の貼り紙に釘付けに。幼い頃、庭に来るキジバトに鳩えさをあげていましたが、「まいろ」は入っていなかったような。そういえば鳩えさも見かけなくなったなあ。鳥えさの下は人間用の穀類リスト。
もうひとつ、街でよく見るのはりんご。果物王国長野の代表選手、最近はシナノの名を冠した品種も増えました。飯田ではりんごの創作菓子もいろいろ。ちなみに駅もりんごがモチーフ、市の施設にはりんご庁舎の別名。りんご形なのかな。
そして山都に欠かせないのは栗のお菓子。木曽の中津川が有名ですが飯田にもあり。おせち料理の栗入り芋きんとんではなく、新栗だけで作られ、栗そのものの味を堪能できる栗きんとんは、一度食べると忘れがたく毎年食べたくなります。
夕暮れどきの飯田の街はとても静か。かといって寂しいわけではなく、穏やかな昭和の名残をたたえています。街で見つけるお菓子も昔ながらの正統和菓子が多いのです。なにもかも新しく変わらなくてもいいじゃないですか。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

若菜晃子

1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社、講談社文庫)、『街と山のあいだ』『旅の断片』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。3月に『岩波少年文庫のあゆみ』(岩波書店)を上梓。

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