シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

村井さんちの生活

2023年10月24日 村井さんちの生活

高齢者を騙す悪徳業者との闘い

著者: 村井理子

 ここのところ、あまり大きな事件もなく、平穏な生活を送ってくれているはずと思っていた義理の両親だったのだが…。先日、夫の実家に立ち寄った際に義父から聞いた話が若干ホラーだったので、報告させていただこう。

 私は自称「妖怪アンテナ(高齢者を騙す妖怪を検知するアンテナ)」の持ち主で、高齢者を狙った詐欺を防止・撃退することに日々執念を燃やしているのだが、そんな妖怪アンテナをすり抜ける業者があとを絶たない。高性能のはずだったアンテナに対抗するように、相手が技を磨いて挑んでくるようになったからだ。手を変え、品を変え、彼らは連日のように高齢者の家にやってきては、様々なトークを繰り広げ、多数のチラシをポストにねじ込み、高齢者のなけなしの現金を搾り取ろうとする。やめてあげてくれないか。弱者をいじめて何がしたいのだ?

 振り返ってみれば、義理の両親は過去数年間で、両手では足りないほど様々な詐欺にひっかかってきた。床下の扇風機、屋根の修理、トイレの修理、キッチンの詰まり、廃品回収、ケーブルテレビ、格安電気、格安電話、キャンセルが困難過ぎて10年ぐらい送られて来ているサプリメント(全然飲んでない)…もう、本当にきりがない。騙され耐性が低すぎる。そのたびに、私が解約などの後始末をしてきた。そんな私の悪徳業者への恨みは相当なものである。

 そして、毎度のこと思うのだが、わが家の義理の両親の場合、半分程度のケースで、わざわざ自分から詐欺に引っかかっているような傾向がある。つまり、こちらから詐欺集団にリーチして、そしてあっさり騙されているというわけだ。日々、ポストに投げ込まれるチラシやマグネット、あるいは営業電話でコロッと騙されてしまうのである。

 私が渡す大事な書類は読まないくせに、チラシは熱心に読むのが高齢者というものだとは重々承知している。やめろと言ったって、不審な業者が無作為にポストへねじ込むチラシを丹念に読むことをやめはしない。なにせ、上手に作られている。高齢者の不安をじわじわと煽るカラーリングや文言が、これは見事だと思うくらいに並べられているのである。例えば「不要品高価買い取り!」だ。世の中、そんなにうまい話はないのだと100回ぐらい言ってやりたい。というか、そういう知恵は高齢者のほうが蓄積してきていると思っていたが、そうでもないのか?

 最近、わが家にも、こんな不要品買い取り業者(シャツ一枚からでも買い取りますなどと言い、回収にやってきて、そのまま家に居座り、最終的には高価な品を安く買い叩いて去る)から頻繁に営業電話がかかってくる。私は知らない番号からの電話にはほとんど出ないが、ときどきうっかり出てしまうことがあって、「奥様でいらっしゃいますか? こちらは不用品高価買い取りの…」と始まったら、無慈悲なガチャ切りをするようにしている。こんな私を見て、夫や息子は「もう少し優しくしてあげても…」と言うが、相手はそもそも私を騙そうとして電話をかけてきており、なんの遠慮がいるのだろう。そのうえ、私にはそういった業者に対する積年の恨みもある。だから、義父にも義母にも、口を酸っぱくするようにして、「知らない番号の電話には出なくていいです」、「万が一、それが何かのサービスの営業電話だったら、理由をつけて一刻も早く切る!」と言っている。言っているのだが…。

 先日、夫の実家に立ち寄った際に義父から聞いた話は、とても恐ろしいものだった。その日、義母はデイサービスに行っていて実家におらず、義父はその隙を狙うようにして私にこっそりと打ち明けてくれたのだ。私はワクワクした。どっきどきだった。楽しんではダメだと思いながらも、次は何があったのかと好奇心を抑えることができなかった。

 「実はな…わしが知らないあいだに、母さんが不要品の買い取り業者に買い取りを頼んでしまったようなんや。ほら、よく電話がかかってくるやろ、『どんなものでも買い取ります』とか言ってくる業者。あれや…」 私は、義父の目をしっかりと見ながらウムと頷き、iPhoneのボイスメモの録音スイッチを押した。

 「それで、先週のことや。わしは昼寝してたんや。そしたら、なんだか長い間、誰かと母さんが揉めているような声が遠くから聞こえてくる。わしも半分眠ったような状態でな…夢なんか、現実なんか、ようわからんような感じやったんや」

 「ほう…」

 「そしたらな、男の声で、『いくらうちが買い取り業者だからって、これはアカン!』って、大きな声が聞こえてきたんや。だから、わしは飛び起きた。飛び起きたんやけど、なかなか体が動かない。だから、必死になって、這うようにして玄関に行ったんや。母さんがたぶん、何かやってしもたんやろと思ってなあ」 90歳の義父、這うようにして玄関に急ぐ、の図である。気の毒過ぎる。

 「玄関に行ったら、生ゴミの入った袋が置いてあって、業者の男が『信じられへん』みたいな顔して立ってたわ。よくよく話を聞いたら、その男が不用品回収業者で、母さんが回収を頼んだことがわかったんや。だから、わしが真ん中に入って、業者の男には『勘弁したってくれ、本人は何もわかってないんや』って説明してな…それでようやく帰ってもらったんや…恐ろしかったわ…」

 「ギャーーーーッ!!」

 義母は義父の知らない間に、不用品買い取り詐欺業者からの営業電話に応じて、買い取りの依頼をし、業者が買い取りに来た当日、生ゴミを差し出して逆切れされた。それが義父が語ったストーリーだった。一瞬、爆笑しそうになったのだが、よくよく考えると、非常に危険だったと思う。義父がいなかったら(そのようなシチュエーションは、発生しないようにはしているが)どうなっていたのだろう? 義母が最後まで対応しきれたとは到底思えない。私は義父に、「お義母さんが電話に出ないようには、できないものですかねえ」と言った。すると義父は、「わしもそう思うんだが、最近は妄想もひどくてな。電話が鳴ると、わしの愛人からの電話だと思って、急いで取ってしまうんや…」

 「ヒィッ! 何重にもややこしいッ!」

 「いろいろと難しくてなあ…アッ、せっかく来てもらってこんなこと言うのは申し訳ないんだが、そろそろ帰ってくれるか? もう少ししたら母さんがデイから戻ってくる時間や。わしとあんたがここで話しているところなんて見られたら、後からどうなるかわからへん…最近はわしとあんたのことまで疑っているんや…」ということだった。

 詐欺、嫁との浮気、愛人からの電話連絡。村井家の大変な日々は、まだまだ続くのであった。

この記事をシェアする

ランキング

MAIL MAGAZINE

「考える人」から生まれた本

もっとみる

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき
  •  

考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥


ランキング

イベント

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき

  • ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら